ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバードのチャイナパワー

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ハーバード大学が発表しているFactbookによると、2010年度の同校への留学生の国籍別の在校生数は、全てのスクールを通算して日本が100名であった一方で、中国は541名となっている。シンガポールからも133名の留学生が在籍しており、その大半は華僑と判断されることから、中華系の在校生数は日本の6倍強に達していると考えられる。

 
一方で、2005年度の在校生数からの成長率は中国40%増加(378名→541名)、日本25%減少(135名→100名)となっており、過去5年間で観察しただけでも、中国の大幅増加と日本の減少が確認できる。

この変化の背景は、アメリカへの留学生総数の変化がある。Institution of International Educationの統計によれば、2000年時点での日本人のアメリカへの留学生総数は約4.6万人、同中国が5.5万人であったのに対して、2008年時点では日本2.9万人、中国9.8万人となっており、マクロトレンドとしての中国人のアメリカ留学増加が、ハーバードの留学生数の増加トレンドの背景になっていると推測できる。

この傾向をもって、米有力紙Washington Postは2010年4月に「草食化する日本人」という記事を書き、内向きになる日本人の心理的傾向が留学生数に表れていると指摘しており、日本のメディアもこれに追随している。個人的には、この心理面の分析はやや説得力に欠けると感じている、同期間に日本人の20代の世代間人口が25%程度減少しているので、単純に若者の数が減ったため、留学生の数も減った、というのが最大の因果関係ではないかと個人的には考えている。
 
いずれにしても中国人の当地でのプレゼンスは年々かなりの勢いで増してきていることは事実であり、日本が忘れ去られゆくアメリカのかつてのライバルである一方で、中国はこれからのライバルとして強く認識されている。
 
中国人のアメリカ留学を象徴する出来事を個人的に経験した。私の学生寮からケネディスクールまでの通学路には、ハウスと呼ばれる学部生用の寄宿舎が数多く存在しており、当地を訪れる観光客の観光名所となっている。当地到着以来、毎日通学途上でバスで観光に来る人々を見ているのだが、まず総数としては圧倒的に中国人が多い。全体の8割強は中国人と思われる。また、特筆すべきは、中国人観光客の中で多いのが、中学生か高校生と思われる塾通いのような格好をした生徒達の集団(冒頭の写真)である。こうした中国人の子供は、進学塾か学校見学ツアーの案内係の中国人の大人に引率されて、10人程度から時には30~40人程度の大集団でハーバード界隈を観光している。

 

これについて中国人の友人に聞いたところ、アメリカ留学を考えている両親が、子供のモチベーションを高めるためにこうしたツアーに参加させるケースが多いとのことで、こうした子供達が前述の541名を将来更に底上げする予備軍になるのではないかと感じる。

昔テレビを見ていて、日本の受験戦争を報道する番組が、進学塾の先生が小学生を引率して有名中学を見学に行き、モチベーションを高めるという内容を放送していたが、それに似た光景をアメリカで見ることになるとは想像していなかった。
 
政治が民主制に移行してからは、意思決定は必然的に「数の論理」で行われる。単純な数の論理になってしまうと、政治は利害調整機能を発揮できずに、社会が停滞するため、数の論理を超えたリーダーシップが必要とされ、ケネディスクールもこうした社会を前進させるリーダーシップの育成を理念に掲げている。
 
一方で、ハーバードがひとつの縮図になるが、国際政治のような明確なコントロールタワーや、全体を統括するリーダーシップが不在の場所においては、民主政治の本来の姿である数の論理が強く発揮される。
 
日本人の英語力やディベート能力が日本のプレゼンスを低下させていると指摘される方もおり、事実そういった側面はあると感じる一方で、少なくとも当地で実感するところでは、英語を母語としている学生を除けば、日本人が英語で他の国々の学生に負けているとは思えない。
 
急激に日本人の英語力やディベート能力が向上することを期待するよりは、数のパワーで押し負けないように、とにかくまずは数を確保することが現実的な対応ではないかと思う。
 
また中国はこうした個人の留学生に加えて、数多くの政府派遣の学生をハーバードに送り込んでおり、ケネディスクールが最大の受け入れ先となっている。

ケネディスクールで行われている中国政府向けのプログラムは、2001年に開始された数週間程度の学位を付与しない形で行われるいわゆるエグゼクティブ・プログラムであり、共産党中央組織部が選抜した40~50名の幹部候補が毎年参加する。

修了生には、中央政治局常務委員(中国政府トップ9)入りが有力視されている李源潮氏や、中国国際金融(CICC)会長の李剣閣氏、商務相の陳徳銘氏等が含まれており、中国政府とハーバード大学のパイプ役になっている。当該プログラムは香港の有力不動産会社である新世界発展有限公司がスポンサーとなっており、中国政府の有力者がケネディスクールを通じてマクロ観を醸成し、資本主義の実態を把握する機会となっており、またハーバード大学としても中国政府とのパートナーシップのための機会となっている。