ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

中国への誤解(海外情報は完全統制されている?)

f:id:madeinjapan13:20130118173753j:plain最近5年程は、日本、アメリカ、中国でそれぞれ同じぐらいずつ過ごしている。その中で最も顕著に感じる中国への誤解は「情報統制」についてである。中国に住んだことのある人ならばご存知の通り、中国のメディア(新聞やテレビ)は中国政府の検閲を受けている。政府批判の内容は存在しないばかりか、むしろ政府の公式発表をやや語気を強めて発表しているのが実態だろう。

ネットについても規制されている。中国国内では、youtubefacebooktwitterへのアクセスはできないし、他にも政治色の強いサイト等、多くのウェブサイトが事実上利用不可能な状態になっている。但し、微信、微博と呼ばれるfacebooktwitterと同じ機能を持ったソフトウェアの使用は可能である。つまり海外にサーバーを持つ(万が一の際にコントロールできない)情報拡散性の高いソフトウェアの使用が禁じられている。

 

興味深いことは、なぜかVPNの使用は禁止されていない。自分も中国滞在中にVPNの契約をしてみた。ものの20分程度だろうか、ネットで簡単に手続きができる。月々の利用料金は1000円に満たない。VPNを契約したところ、youtubeも、facebookも、twitterも、あらゆるウェブサイトが閲覧可能なのである。日本やアメリカにいる状態と全く同じ、なんら制約のない形でインターネットの利用が可能である。VPN利用料金も非常にお手頃価格であり、どう考えても真剣に規制する気があるとは思えないレベルだ。

これはもの凄い意味を持つ。つまり中国国内に住んでいる中国人であっても、欧米と情報のギャップは既に「事実上」ない状態となっているのである。高等教育を受けた若い世代であれば、アメリカでも日本でも国を問わず、恐らく新聞やテレビで情報を確認し、深堀りしたいテーマについては、ネットで詳しく調べるだろう。中国も同じことができる状態となっている。一方で、中国政府による新聞、テレビのメディア報道は今日においても厳しく規制されている。むしろ直近の数ヶ月では規制強化の流れだ。この矛盾はどう整理できるだろうか。

 

想像するに、教育を通じた前提知識の理解のない人々は流されやすく、群衆心理が働きやすい。こうした人々に無秩序に情報を流すことは危険であると考えられているだろう。一方で、一定の教育を受け独自の判断力のある人々については、VPNのような抜け道を「黙認」することで、情報の自由な取り扱いを事実上許していると思う。

あるいは中国において、大規模な規制緩和策を打つ場合には、特区を作ったり、試験区を作って、小規模なテストケースを行い、その成否を基に中国全土に広げていく政策が取られることが多いが、情報統制についても同様の取り組みをしようとしているのかも知れない。

 

いずれにしても中国国内においてすら、海外情報が完全に統制されているという認識は今日においては間違っているといえる。今年の終戦記念日安倍総理靖国神社参拝を見合わせて、代わりに玉串料を支払った際、とある日本語を勉強している中国の友人から「玉串料」(たまぐしりょう)ってなんなの?日本のウェブサイトを読んだけどよく意味がわからなかった、と質問された。

玉串料は何ですか?と日本の街角で質問したら何人が即答できるだろう。少なくともインテリ層については、情報ギャップが埋まるのは時間の問題ではないかと痛感した経験となった。