ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

オモシロキコトモナキ英語ヲ、オモシロク

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「オモシロキコトモナキ世ヲ、オモシロク」は、有名な高杉晋作の辞世の句であるが、世の中全てとは言わないまでも、外国語の勉強はオモシロキコト少なく骨が折れる。ブログタイトルの通り、純国産ドメスティック出身の筆者も、英語、中国語の習得には厳しい修行僧生活を経験している。英語にせよ、中国語にせよ、ネイティブや帰国子女は羨ましく見えるものだが、ここでは敢えて純国産の外国語学習者としてのオモシロキコトを申し上げておきたい。

 

まず厳しい修行僧生活をオモシロキコトに変える秘訣は、精神鍛錬のための最適なトレーニングと捉えることではないかと思う。日本で利用可能な書籍や英語塾の方法論は洗練されており、方法論レベルでは独学でもかなりのレベルを目指せると感じる。多くの日本人にとって最大の障害は、やる気を長期間持続させられるかどうかではないだろうか。

古今東西、大成した人々の多くは、なんらかのストイックな反復訓練で抜きん出た才能を開花させている。これは英語に限らず通用するマインドセットではないかと思う。外国語習得の得意な人には、マラソンや筋トレが好きな人が多いことも、決して偶然ではないように感じられ、スポーツと仕事の相関性に似たものが外国語学習でも期待できると思う。アスリートのような気持ちで、マインドセットのフルモデルチェンジを楽しむことができれば、英語学習もオモシロキコトに変わると実体験から痛感する。

 

もう一つ、より重要なオモシロキコトは、日本語と外国語の翻訳ニュアンスの違いに敏感になれることではないかと思う。日本語でも英語でも、むしろストレートな意味よりも、裏の意味の方が重要ということは多々あるが、翻訳の段階で重要なニュアンスが欠落(あるいは歪曲)されてしまうことは頻繁に起こっており、またしばしばそういった翻訳のズレが致命的な認識ギャップになることがある。

例をひとつ挙げたい。ケネディスクールのケーススタディのひとつに、2003年イラク戦争の戦後処理を対象としたものがある。その冒頭の一節は以下のようなもの。「In late April 2003, Major General David Petraeus and the US Army...(中略)...  It was less than a month since the start of the US invasion of Iraq.」米軍のイラク戦争をinvasionと表現している。ご存知の通り、invasionの英和辞書の翻訳(例えば研究社の英和辞書)は、大学受験の単語帳にあったように「侵略/侵入」である。米軍のイラク進駐を、アメリカ人自ら侵略と表現しているのかと一瞬戸惑った。いかに民主党系の教官(故にイラク戦争を行った共和党の政策に批判的)の多いハーバードとはいえ、随分自虐的と感じたのだ。

この疑問は、別のジョセフ・ナイ教授の講義の中で答えを得た。要はinvade自体には目的意識は含まれておらず、あくまで軍事行動を意味しているとのこと。日本語の侵略という言葉には、ネガティブな目的意識が付随しており、辞書通りの直訳は正しくないと認識した。要はイラク戦争を侵略行為だと批判する人も、そうでない人もどちらもinvadeと言って差し支えないということのようである。歴史観における重要ワードである「侵略」ですらこうしたギャップが生じることは驚くべきことである。

 

もう一つ例を上げると、日本語の「国際連合」は英語ではUnited Nationsである。この中国語訳は、全くニュアンスの異なる言葉、第二次大戦の戦勝国である「連合国」(リェンハグォのような発音)となる。

実は中国語の翻訳がより正確であり、英語のUnited Nationsの原義は、第二次大戦の戦勝国である連合国を意味している。尚、日本はドイツ、イタリアと共に敗戦国である枢軸国側に所属していたので連合国ではない。

国際連合と翻訳してしまうと、戦争の勝ち負け関係なくグローバルで公平な組織のようなニュアンスとなっているように思う。数十年前の日本人翻訳者の意図は不明だが、敗戦国日本からすれば、願わくば公平であって欲しいという「希望」が入り混じった翻訳なのだろうか。

2005年、日本が国連の常任理事国(P5)入りしようとした際に、中国から厳しい批判を浴び、結果反日暴動にも発展したことがある。「国際連合の常任理事国に日本がなる」というニュアンスと、「枢軸国であった日本が、連合国の常任理事国になる」というニュアンスでは、かなり違った印象を受けるのではないだろうか。

 

オモシロキコトモナキ英語ヲ、オモシロク。