ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバードで語るアメリカの東アジア戦略(3)

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前々回の投稿「ハーバードで語るアメリカの東アジア戦略(1)」では、現在のアメリカにおいては、これまでの冷戦システムと日米同盟についての見直し論が出ていることをご紹介した。筆者が実際に接したアメリカ人の中には、かなりあからさまにチャイナシフトしている方も多く、特に昨年の尖閣騒動以降は、残念ながら「日本人」であるがために距離を取られていると感じたこともあった。(どちらとも仲良くすれば良いと思うのだが、アメリカ式の善悪二元論なのだろうか、、、)

 

アメリカの中にもさまざまな意見がある中で、日本との同盟関係に強い期待を寄せているアメリカの有識者の意見をご紹介したい。

第三次アーミテージ・ナイレポート(2012年8月発行、以下からPDF入手可能)

http://csis.org/files/publication/120810_Armitage_USJapanAlliance_Web.pdf

これはアメリカの共和党、民主党の垣根を越えてまとめられたレポートで、日米同盟を冷戦時代を超えてもなお、将来に渡っても有効で強力なパートナーシップに変えていくことを志向しているレポートである。なお執筆者のジョセフ・ナイ教授は、筆者のケネディスクール時代の 指導教官でもある。

 

非常に多岐に渡る分野についての提言がまとめられているが、日本と中国の在り方については、「Re-Rise of China」とサブタイトルのある、左下に表示されているページ数の8ページ目から、10ページ目冒頭までの箇所が対応している。この箇所の要点をまとめると 、以下のような内容である。

(1) 中国の成長は、アメリカと日本にとってもメリットがある。一方で、急成長し過ぎた中国の不安定な体制は、政治経済両面において周辺地域を不安定化させるリスクも含んでおり注意が必要である。

(2) 中国が、チベット、新疆ウイグル、台湾に加えて、尖閣諸島や南シナ海への拡張的な強硬政策を取り続ければ、軍事的な緊張は避けられないだろう。日米両国は、ASEANやインドとも協力の上でアジア域内の軍事安定化を進める必要がある。

(3) 中国の経済成長が鈍化している。先進国化を目指す中で、これまでの輸出型経済モデルを、内需型経済モデルに切り替える際には多くの難題に直面するだろう。既に中国は政情不安のリスクに備えて、国防費に匹敵する国内治安維持予算を確保している。また、国内世論を統一するために、仮想敵国を作り出しナショナリズムを扇動することが予見される。

 

レポートの目指しているものは、アメリカと日本で組んで、中国の政治不安定リスクを抑えながら、 同時に中国の経済発展のリターンを享受していこうという趣旨である。アメリカと日本が、東アジアの「安定化装置」の機能を担っていくことが意図されている。

 

ナイ先生と個人的に話をしていた際に筆者が痛感したことは、 日本からアメリカに対して有効な提案をしていく必要性である。これは中東やアフリカの話ではない。中国を含めた東アジアは日本の所属する地域であり、日本が先んじてさまざまな戦略を立てて、アメリカに提案するぐらいのスタンスが必要であると感じる。

実際に、アメリカ人の日本観や中国観は的外れなこともしばしばであり、要はアメリカ人にとって、東アジアはアウェーの環境。ホームグランドにいる日本が、よく地域を調べて、戦略を練り、アメリカに知恵を出すことが、「日米同盟の強化」に不可欠ではないかと考えている。