ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

三井物産筆頭常務 安川雄之助の生涯 (2)

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安川雄之助は飛行機も電子メールもない明治、大正時代にも関わらず、インドの綿花輸入を振り出しに、米国ニューヨーク勤務、中国大陸での軽工業品の取り扱いや、ロシアでの重工業品の取り扱いなど、世界中を縦横無尽に活躍していく。 世界情勢を読み、商品相場を読み、現地の事情に精通し、それをビジネスに結び付けながら実績を出していく様子が本の中で詳細に描写されており、特に商社勤務経験者であれば非常に興味深く読み進めることができると思う。

 

印象深い記載は、三井のような大資本は、投機の類に色気を出さずに、着実な工業生産の事業を「経営」していくべきであるとのコメントである。この時代にして、既に単なる貿易会社から、事業投資会社を志向し始めていることに驚いた。

そして事業投資の対象は、日本人の国民性を利用したものでなければならないと指摘している。国民性として「知力」、「器用さ」、「精神統一の特有性(集中力)」が挙げられており、当時の有望な新規事業として化学工業と精密機械工業を立ち上げている。どちらも原材料費に比して、技術的付加価値の高い事業である。現代の表現でいえば、高付加価値のモノヅクリということだろうか。100年前の発想とは思えない程に、現代に通じる日本人観であると感じる。

 

日本人の国民性も大きく変化がないのと同様に、日本人のアメリカ人観、中国人観(以下転記)も大きく変化のないものだと本書を読んで痛感した。

 

-アメリカ貿易商人

各種の商品を雑貨屋式に取り扱わず、それぞれの種類につき専業的に取り扱うため商品に関する知識に富み、注意も周到であることはその長所と見るべく、また取扱い商品に関し薄利多売主義をとるため宣伝に全力を入れ、絶えず手を換え品を換えて消費者の興味をそそる点において卓越している。

しかし英国商人の如く一度信用すればその好関係を傷付けないように、たとえ一時の不利を忍んでも取引先を守り立てて行こうとする雅量に欠け、ソロバン次第では提携するが思わしくなければ多年の好関係も一擲して手を切ることを躊躇しない。かくて利害の打算には極めて露骨である。

 

-中国商人(以下、時代背景考慮の上で原文のまま転記)

支那商人は一般に利害の打算に明るく商機を見ることなかなか機敏であり、掛け引きも巧みで些細な利益といえども、これを逸しないように粘り強く努力する点において優れている。一騎打ちしては恐らく支那商人に太刀打ちできる国民は余りあり得ないであろう。南洋各地の商売が事実上華僑によって支配されているのを見ても、支那商人の恐るべき潜在力を認められる。

しかし彼等のほとんど通弊ともいうべきは、同族以外のものとは容易に親しまぬ風があるから、近代的合本制の発達は困難である。かつ金融機関の不完全なこと、科学的知識の普及していないこと、自給自足的国民であること等の事情により、国際市場における支那商人の活動は余り見るべきものがない。

 

今日においても、アメリカ企業の特徴はスペシャリスト志向であり、イメージ戦略であり、短期利益の追求であり、中国企業の特徴は卓越したビジネスセンスであり、同族経営志向であり、金融システムが弱いところである。これが意味するところは、三カ国の国民性は独特のものであり、少なくとも目先数十年の時間軸では大きい変化がないものだということではないだろうか。