ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

セクシープロジェクトで差をつけろ

f:id:madeinjapan13:20120807123930j:plain

セクシープロジェクトで差をつけろ」は、マッキンゼー出身の経営コンサルタントであるトム・ピーターズ氏の洋書「The Project 50 (Reinventing Work)」を翻訳家の仁平和夫氏が日本語訳した書籍である。10年以上前、大学生だった時分に同書を紀伊国屋で手にして以来、自分にとってはバイブルのひとつとなっている強烈なインパクトの書籍である。

 

原書にはセクシープロジェクトについて、こう書かれている。「We don't study professional service firms. (Mistake.) And we don't study WOW Projects. (Worse mistake.) There is, of course, a project management literature. But it's awful. Or, at least, misleading. It focuses almost exclusively on the details of planning and tracking progress and totally ignores the important stuff like: Is it cool? Is it beautiful? Will it make a difference? My No.1 epithet: "On time . . . on budget . . . who cares?" I.e., does it matter? Will you be bragging about it two--or ten--years from now? Is it a WOW project?」

つまり多くの組織で最も力点が置かれているように、計画通りに、予算通りに、ルーティンワークが完了したことで満足するな、と。最も大事なことはそれがクールかどうか、革新を生み出したかどうか、10年後にセクシープロジェクトであったと言われるかどうか、であると。

トム・ピーターズは土木工学エンジニア出身の経営コンサルタントであり、計画通りに、予算通りにプロジェクトを管理する、科学的管理法の専門家のひとりと見なされている。にもかかわらず、クールでセクシーなプロジェクトでなければ意味がない、と断言しているところにある種の矛盾と、同書の最大の魅力があると感じている。

 

筆者がハーバードに留学していた際に最も多く耳にしたキーワードは、「リーダーシップ」、「イノベーション」、「アントレプレナーシップ」である。思うに、この3語にはアメリカの魂と自尊心が込められている。

ハーバードは教育機関であるので、教育を通じてこうした能力をどう開発できるのかを研究し、また教育として実践している。これは前の投稿「リーダーシップは教育できるか?」、「イノベーションは教育できるか?」で詳しくご紹介した通りである。

こうした能力は、先天的な資質や、大学入学前あるいは大学卒業後の人生経験における影響が極めて大きく作用していることは想像に難くなく、果たして大学教育でどこまで能力開発できるかどうかについては、自ら標榜しているハーバードですら確信に至っているとまでは言い難い。

但し明白な点は、「リーダーシップ」、「イノベーション」、「アントレプレナーシップ」は、詰まるところ、「セクシープロジェクト」を目指したものという点で共通しているということである。それが技術志向のものか、ビジネス志向のものか、あるいはアカデミズムや、政治経済全般のものかは別として、結局はほとばしる情熱の下に、世間の人々が驚嘆するような結果を生み出すことに、アメリカ的な価値観が集約されているのではないだろうか。

 

他の場所でも論じられていることであるが、ハーバードの卒業生の進学先として有名ブランド企業に入社することは、それ自体ではそれほど高い称賛を得られない。有名ブランド企業で出世して、運良く偉くなったとしても、結局地位の問題ではなく、「なにを成し遂げたのか」に力点が置かれているといえる。

むしろ大学をドロップアウトしてアップルを創業したスティーブ・ジョブズや、マイクロソフトのビルゲイツ、マーク・ザッカーバーグこそ、無の状態からセクシープロジェクトを生み出したアメリカの価値観を体現している人物として、極めて高い人物評価となっている。これは政治家のキャリアや、それ以外の分野の人物についても共通した価値尺度である。

 

一方で、アメリカにはセクシープロジェクトのために血道を上げている、極めて優秀なリーダー予備軍が無数にいて、日々能力を高めながらせめぎ合っている。日本人、あるいはアジア人の立場で、「世界に挑戦」するためには、英語でアメリカで学ぶだけでは、多くの場合競争相手の後塵を拝するのが関の山ではないだろうか。

むしろアメリカ人が不得手としながらも、非常なる興味関心を寄せている中華圏含めた東アジア( 「中国」という魔法の言葉)の専門性を深堀りしながらセクシープロジェクトに取り組むというのが、最大のインパクトを追求する方策のひとつであり、事実、こうした認識の下で、数多くのハーバード卒業生である日本人や中国人が、アメリカとのコネクションは維持しながらも、仕事の主戦場としては東アジアに戻って「勝負を掛けている」と感じている。