ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ソフトパワーという名のイノベーション

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先の投稿「セクシープロジェクトで差をつけろ」では、アメリカ的価値観であるリーダーシップ、イノベーション、アントレプレナーシップは、分野の垣根を越えて考えると共通した能力として捉えられるという見方をご紹介した。

それが技術志向のものか、ビジネス志向のものか、あるいはアカデミズムや、政治経済全般のものかは別として、結局はほとばしる情熱の下に、世間の人々が驚嘆するような「変化」を生み出すことに主眼が置かれている点で共通している。

筆者はハイテクの専門家ではないが、ビルゲイツはwindowsによってコンピューターの概念を変え、スティーブ・ジョブズiPhoneによって電話の概念を変え、マーク・ザッカーバーグFacebookによって友達付き合いの概念を変えソーシャルメディアという産業を作り出したという点において、単なる技術革新の枠を超えて、政治、経済、文化あらゆる分野を包含したリーダーシップであると感じる。また、日本人が作り出したウォークマンやハイブリッドカーにも、同様のリーダーシップを感じている。

 

同様のリーダーシップとして、「ソフトパワー」という概念をご紹介したい。ソフトパワーという言葉は、筆者の指導教官であるハーバード大学ジョセフ・ナイ教授が提唱した政治経済の新しい概念であり、「ハーバードで語るアメリカの東アジア戦略(1)~(3)」でアジア部分をご紹介したアメリカの国家戦略を形作る主要な概念のひとつになっている。スティーブ・ジョブズが、「iPhoneスティーブ・ジョブズ」であるように、「ソフトパワーのジョセフ・ナイ」と認識されている。

ソフトパワーは、軍事力や資金力などのハードパワーに対比される能力としての概念であり、「文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や、発言力を獲得し得る力」と規定されている。

ハードパワー戦略は、シンプルに表現すれば、アメリカの国益に反する国家や人々に対して、アメリカ軍を送り込むぞ、と脅したり、金をやるから仲間になれ、と利害関係だけで協力を引き出す戦略を意味している。一方で、ソフトパワー戦略は、アメリカの理念や価値観、魅力を伝え、長期の信頼を勝ち取り、それをレバレッジしてアメリカの国益を達成する戦略となる。

William Overholt氏の著書「Asia, America, and the Transformation of Geopolitics」に詳細が分析されているが、アメリカが冷戦を勝ち抜き、ソ連を自滅に追いやった最大の勝因は、アメリカ軍が強かったからだけではなく、また莫大な資金を単にばら撒いたからでもない。実際にアメリカは、一度もソ連と戦闘行為を行っていない。むしろ世界銀行やIMFを初めとしたアメリカのソフトパワー機関が、多くの専門家を第三世界に送り、経済開発のノウハウを教え、民主主義のシステムを教え、アメリカの理念や価値観に対する共感と協力姿勢を引き出したことであると理解されている。

 

ソフトパワーは、アメリカ国家戦略に限った話題ではない。経営やビジネスの世界でも、いわゆる「軍隊式」と言われるハードパワーに依拠した古典的なマネジメントスタイルは、既に主流ではなくなっている。

現代においても、ハードパワーは一時的な秩序は生むかもしれないが、「上司である自分に従わないなら、クビにするぞ」や、「ボーナスをやるから倍働け」というだけでは、特に成熟した年齢のビジネスマンのポテンシャルを最大限引き出すことは難しいだろう。経営やビジネスの大きな流れにおいてすら、ソフトパワーという概念が分野を超えて浸透している証左であると考えている。

もちろんアメリカがハードパワーを全く持たない状態、つまり米軍を解散させ、国家財政が破綻するというような極端なケースを考えれば、それでもソフトパワーだけでリーダーシップを示せるかと問えば、答えは間違いなくノーである。ソフトパワーはハードパワーとの組み合わせにおいてのみ最大の威力を発揮する。これはビジネスにおいても言えることで、それなりのポジションや、動かせる資金力、人員動員力が背景にあるからこそ、個人としての魅力や志の高さが生きてくるはずである。

 

いずれにしても、アメリカの一線級の人物達の「コンセプト・メイク」の能力は極めて高いと実感する。筆者の使っているアメリカで購入したiPhoneの裏面には、「Designed by Apple in California, Assembled in China」と書かれている。聞くところではコア部品の多くには、日本製品も使われているようである、、、残念極まりない。「Made in Japan」か、「Made in USA」かを問う時代は終わり、デザインやコンセプトで勝負する時代になっていると実感する。日本やアジアが打ち出すコンセプトはなにかを、アメリカのコンセプト・メイクから学びたい。