ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

純粋ドメスティックが考えるグローバル人材(5)

f:id:madeinjapan13:20131012025609j:plain

ここまでの話は海外で仕事をしていく上で不可欠な英語力(語学力)と、やや余談として筆者の中高時代の経験をネタにしたメンタル面の話をさせて頂いた。

ただもう少し野心的に捉えると、わざわざ「グローバル人材」と表現するところには、「ただの語学人材」を超えたもっと高度な能力が期待されているようにも感じている。

つまり、

   グローバル人材=語学力+??

の方程式の「??」の部分に、ただ英語ができるだけではない、積極的に世界をリードできる能力を日本人が持つことが期待されているからこそ、いつまでも「グローバル人材とは?」という問いが成り立ち続けているのではないだろうか。

そもそも英語力だけであれば、相当なレベルに持ってこれたとしても、英語ネイティブの優秀な人材との競争のスタートラインに立っているに過ぎず、それだけでは不十分であることはある種明白な現実だと感じる。

この「??」の部分に入るものはなんだろう、と考えてみる。それはテクノロジーにおけるイノベーション能力という人もいるだろうし、ビジネスを展開する商才だという人もいるかもしれない。

定まった答えは出ていない中で、筆者が追求したいと考えているものは「日本で忘れられた地政学という言葉」でご紹介したジオポリティクス(地政学)の知見である。言い換えれば、世界情勢を的確に見極めて、政治に精通し、マクロ経済に精通した状態で、最適な戦略の下に、ビジネスのポジションを取ることを意味している。

筆者は大学を卒業しハーバードに留学するまでの間、一貫して海外投資の仕事に従事してきた。北米の投資ファンドに出向していた期間も含め、ここで垣間見た欧米金融エリートの実態は、彼らが決してエクセルの企業価値計算が日本人よりもずば抜けて得意であるわけでもなく、秘密のコンピュータープログラムでアジア人よりも正確に資産評価や企業価値評価ができるわけでもなかった。

もちろんMBAやコンサル、投資銀行に代表されるこうした「ノウハウ」が、世界標準になったことは間違いなく、いまや世界中の国々で、ファイナンスの教科書的位置付けになっている以上、こうしたエクセル計算式の内容を「基礎知識」として知ることは極めて重要である。

一方で、彼らの超過収益は、必ずしもエクセルをいじることだけで生まれている訳ではなく、端的にはジオポリティクスの知見と、そこから導き出される投資機会を最優先に享受できる立場にいることに起因していると思う。

例えば、資源やエネルギーへの投資、これは実際の実物資産への投資も、先物などの金融資産への投資においても、欧米諸国の軍事政策と資源エネルギー業界の間の密接な関係があった上で、ヘッジファンドやエネルギー企業は有利なポジションを築いている。

ハーバードやプリンストンの同窓生が、アメリカ軍にも、アメリカの議会にも、石油会社にもヘッジファンドにもいるような状態である。アメリカ政治がどう動けば、アメリカ軍がどう動き、資源価格がどう変動するか、こうしたストーリー展開を大学などのネットワークに基づいて集めることができる。また同じ情報ソースを活用して、資源価格との相関性が非常に強い、鉱山機械や建設機械の製造企業への投資を見極めることも有利になる。

あるいは他国の内需向けの産業への投資においても、当該国との通商交渉の趨勢や、外交官経由で入ってくる現地情報は極めて有効に機能している。例えば、日本に対して規制緩和を要求し、その動向が良く見えていれば、規制緩和される業界への投資は非常にやり易いことは間違いない。またより直接的に政治力を使って、有利な案件をディールソーシングできる可能性も高い。

現時点で日本が欧米列強に対して大きく劣後している点、言い換えればグローバルレベルで日本がイニシアチブを取るに至っていない大きな原因は、ジオポリティクスの知見がない、あるいは戦後あえて放棄してしまい、欧米を超える独自の海外権益を確保できていないことにあるのではないかと考えている。

以下、「純粋ドメスティックが考えるグローバル人材(6)」へ続く。 

> このブログの記事一覧へリンク