ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ (3)

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温州はチャンスと自由があるポジティブな面を持つと共に、いま中国が抱えるネガティブな面も同時に合わせ持っている。

と、その話に入る前に、そもそもなぜ筆者がハーバードの研究員として、中国に来ることになったかの話をご紹介したい。


中国という魔法の言葉」でご紹介した通り、現在ハーバード大学を初めとしたアメリカの教育機関、研究機関の中国に対する注目度は他の国への注目度を遥かに凌駕している。社会科学関係者の主たる関心は、中国の潤沢な消費市場へのビジネス参入機会と、政治面で力をつける大国中国を理解したいという二点に絞られる。

自分自身の研究テーマは「中国経済」であり、より詳しく説明すると「中国の次世代金融システム」ということになる。日本人である筆者が、「アメリカの大学で中国をテーマに研究員をしている」と話すと、驚かれることが多いのだが、自分なりに解釈しているその理由は、以下の3点である。

(1) アメリカの中国への強い関心という大きなトレンドがあり、故に大量の研究者を中国関連テーマに投入していること、

(2) 筆者自身が中国金融事業の実務経験があること、加えて、

(3) 東アジアの事情に精通していながら、言論の自由があり情報の信頼性が高い日本人という特殊な立場にいること、中国人の場合は、本土在住者であれば体制翼賛的な発言に偏りがちで、逆にアメリカに移住してきたような中国人だと極端に体制批判的になり、どちらにしてもあまり冷静な意見を聞くことが難しいこと。


現在中国は急激な成長によってこれまでの発展途上モデルを脱しつつあると同時に、労働力の高齢化や、貧富の格差の拡大などの諸問題を抱えており、今後先進国レベルの生活水準を実現するためには多くの難題が待ち構えている。

これは専門用語で「中所得国の罠(middle income trap)」と呼ばれており、まさに中国のような中所得の国が、先進国並みの高所得国になろうとする場合、国固有の問題を超えた共通の難題があることを意味している。

端的に表現すると、温州のような民間企業が活躍し、イノベーションが起こり、国内外の投資が活発化してくれることで、「中所得国の罠」を克服し、先進国の仲間入りをしたい、というのが現在の中国政府の政策目標といえる。


ただその道のりはとても険しいものとなるはずである。欧米列強のヘゲモニーが確立して以降、中所得国の罠を脱したことのあるのは「日本」以外に存在しない。日本が奇跡の国と言われた理由がここにある。シンガポールのような都市国家を除いて、他の国々はたとえ急激な経済成長を遂げたとしても、中所得止まりであり、生活水準で欧米を抜いた国は存在しない。

2010年に経済規模で日本を抜き、世界第二位の経済大国になり、中国国民の間には並々ならぬ努力の上で、「落ちぶれた過去の大国」の汚名を返上してこれたとの自負と自尊心を感じる。

一方で、未だに生活水準はあくまで中所得国であり、欧米や日本とはかなりの開きがあることはコンプレックスにもなっている。日本に対する一般の国民感情は、同じアジア人でありながら、やってもやっても「追いつけない追い越せない」ライバルに対する複雑な感情というのが正確ではないかと、現地に比較的長く住んで感じている。


以下、「ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ (4)」へ続く。

 

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