ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ (6)

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アングラ金融に加えたもう一つの中国金融システムの問題点は、「理財商品」と呼ばれる銀行の窓口で販売される高利回りの預金性商品。むしろメディアでは、こちらの理財商品の方がシャドーバンキングの震源地として報道されることが多い。

時はさかのぼり、真夏の酷暑の上海。今年の夏は異常な暑さで、気象観測所ができて以来の記録的な酷暑となった。中国の新聞社も遊び心を駆使して、「路上で焼肉ができるか?!」という企画を組んで、実際に上海や重慶などの酷暑に見舞われた都市の道路上で、生肉を置いて焼肉になるかを試す、という記事を書いていた程であった。

筆者は40度を超える炎天下の中、上海市内の銀行窓口で口座開設の作業に取り組んでいた。場所は中国の4大銀行のひとつ、超大手銀行の某支店。「世界水準のサービスを、あなたに」というキャッチフレーズの映像が流れる大型スクリーンの下で、あまり愛想を感じさせない女性行員に口座開設手続きを尋ねた。


「あなたは日本人ですね?それならこの書類に記入してパスポートと一緒に持って来て下さい。」そっけない感じで淡々と説明をする女性行員。外国人であったとしても、銀行口座の開設はとても簡単にできる。生年月日や中国国内の住所を記入してパスポートと共に提出すると、ものの5分で人民元の口座が完成した。

「理財商品を買いたいのですが、なにがお勧めですか?」と聞いてみると、「理財商品はあまりにたくさんあるので、どれが良いとか分かりません。全てホームページに載っているので、自分で見て下さい。」と、やはりそっけなく返答を受けることになった。

口座を開設した銀行のホームページで「理財商品」のタブをクリックすると、ページ数にして20ページあまりに渡るもの凄い数の理財商品が、目の前に現れた。金利水準の高低でソーティングしてみる。どうやら年率4~9%の幅にほぼ全ての理財商品が分類されるようだ。期間はそれぞれ異なっており、30~90日が最も多いように見える。

予想外であったのは、最低投資単位。10,000元(約15万円)ぐらいから買えるかと思っていたら、大抵は50,000~100,000元(約75~150万円)となっており、「試しに買ってみる」という割には金額が大き過ぎるので、実際に買うことは諦め商品理解に集中することにした。

ローリスク型、ミドルリスク型、ハイリスク型、それぞれの理財商品の詳細ページに移って目論見書に目を通すことにした。まず目に入るのが「これはリスク商品なので元本毀損リスクがあります。損失が出た場合は投資家の自己責任です」と書いてある。その下には、信用リスクや金利リスクなど、どういったリスクがあるのかについても、詳細な説明がなされていた。しかし肝心な説明が脱落していた。

そもそも何にいくら投資している商品なのかの説明が見つけられなかった。「投資対象」の欄には、「債券0~80%、債券類0~80%」、あるいは「債券0~60%、株式0~60%、それ以外0~60%」のように書かれているが、これだけでは流石に自己責任の取りようもない。文字通り読んだ場合は、「何に投資するかは教えません。でも損が出たらあなたの自己責任です。」という理解になる。

これで本当に大丈夫だろうか、中国の投資家はこうした損失を黙って受け入れるのだろうか?

こうした理財商品は、銀行のバランスシートから切り離されることで、債券、株式あるいは銀行が融資している貸出債権に投資が行われる。なににどの程度投資されているかは不透明であり、多くは地方政府のインフラ開発や不動産開発に投じられている可能性も高い。

中国の銀行が理財商品に走ることになった理由は、中国政府による規制の枠の中で、収益拡大に走った結果のようである。中国政府は銀行の融資総量と預金総量の比率、いわゆる「預貸率」によって銀行のバランスシートをコントロールしている。一方で、貸出金利も預金金利もこれまでは政府の完全コントロール下にあり、銀行として収益捻出のための工夫の余地はほとんどなかった。

銀行は中国政府の「子会社」として、中国国民の預金を集めて、政府保証や不動産担保を持つトップティア企業に対して「金をばら撒く機能」を果たしてきたところが大きい。

一方で、トップティア企業への貸出と、預金金利の間の預貸スプレッドは縮小を続けており、従来のビジネスモデルは岐路に立たされている。また、この絶対安定的な銀行経営にも競争原理を導入する動きが活発化しており、更に銀行収益を圧迫する要因となっている。理財商品はそうした銀行の立場としての、技巧をこらした収益捻出のためのツールとなっている。

ただし前述の通り、中国の投資家たちは理財商品の損失を受け入れることは難しいだろう。結果的にオフバランスされているはずの金融資産のリスクは、実質的には中国の銀行に残ることになる。結局実態は銀行丸抱えであることに変化がない、これが理財商品の残念な実態であると感じている。

以下、「ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ (7)」へ続く。


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