ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ (8)

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上の写真にある通り、中国で広く普及している原付バイクに乗る人は、ほとんどヘルメットを被っていない。おそらく9割以上の人が、ノーヘルでバイクに乗っている。

「なぜヘルメットを被らないのですか?危ないと思います」と尋ねると、「だって面倒くさいし恰好悪い」という不良高校生のような返答となる。こうした細かい生活感度の違いを知ることは、国民性やメンタリティを知る上での材料にもなっている。


次世代金融システムへの切り替えは、よりマクロの視点で捉えると、「国退民進」(国有企業を縮小し、民間企業を拡大する)という中国の社会構造の変化、及びそれに必然的に伴う「政治構造の地殻変動の可能性」を内包しているところが興味深い点でもある。

前述の通り、1979年改革開放政策以降の中国経済システムは、ソ連のNEPや日本の55年体制を手本としながら、中央政府が強力な管制高地を掌握し、国有大銀行を通じて、国有大企業に資金を配分する非常に強力な中央集権体制の下で進められてきた。

後進国が中所得国に至るプロセスにおいては、こうした体制は合理性があり、優秀な政治家や官僚によって計画され、マクロコントロールされた経済は、驚くことに一度も金融危機に見舞われることなく、高度成長を実現していった。しかし、この方法論は既に役割を終えつつある。

ここから生活水準の意味で先進国への仲間入りを果たそうとした場合は、「国退民進」とマーケットメカニズムの導入が不可欠である、というのが中国政府指導部の共通した認識となっている。制度疲労を起こしている既存システムの切り替えが必要となる。

しかし一度出来上がってしまった国有企業システムは、強力な既得権益を持ち、改革に対する抵抗勢力となっていると思う。これは日本の「国鉄民営化」や「郵政民営化」とは比較にならない程の激しい政治対立を生んでいる。

既得権益の実態は、まさにアンダーグラウンドの世界なので、噂ベースの憶測の域を出ないが、メディアで明るみになっているだけでも、官僚や国有企業社員への賄賂や不正蓄財、薄給では決して買えないマンションを大量保有している人がいることが報道されており、これを氷山の一角と見るのがむしろ適切ではないかと思う。

ひとつの興味深い実例は、現地でヒアリングした国有企業におけるコネ採用の規模感である。多くの中国人から聞いたところでは、大手国有企業の場合、なんらかの親のコネクションを理由に採用に至るケースが8~9割。

ごく少数、例えば北京大学清華大学首席クラスの学生のような例外を除けば、ほとんど全てがコネ採用となっているのが実態のようである。こうした人々が、既存の社会システムを擁護する側に回り、強大な権力を持ってしまうと、「国退民進」というスローガンは名ばかりのものとなってしまい、中国経済は活力を失い、永久に中所得国の罠から脱することはできないだろう。

日本で語られる「中国」は、多く「中国外交部」の公式発表を指しているように感じるが、寧ろより中国内部の流動的な政治情勢を詳しく知ることが、この大国とうまく付き合っていく上での重要なポイントになると感じている。

その観点で、8月に発表され、9月下旬にスタートした「上海自由貿易区」プロジェクトは、現政権が構造改革のための目玉事業として位置付けており、「中国は変われるのか?」という疑問に対して、政府指導部がどういった答えを具体的に出していくのか非常に興味深い政策である。またそれに反対する国内勢力との主導権争いを見極める中で、流動的な中国政治の実態が見えてくるとも感じている。

 

歴史を紐解けば、中華民国時代、孫文蒋介石をサポートしたのは、浙江財閥と呼ばれる上海や温州近辺の富裕層であり、また日本の政治家や実業家であった。孫文は日本の実業家である梅屋庄吉の財政サポートなくして、中華民国の建国は実現できなかったと告白している。

中国の急成長は、にわかに東アジアのジオポリティクスを20世紀前半に引き戻していると感じており、「国退民進」の動きが加速すれば、中華民国時代のように、更に多様な中国との付き合い方が生まれてくることが予想される。次々生まれる民営企業の実業家が、どう中国の改革を加速させていくのか、その中で、日本やアメリカなどとどう協調関係を作り上げていくのかが非常に興味深いところと感じている。

こうした変化する中国を見極める上で、「金融システム」についてどういった議論が行われ、具体的にどう政策として実行されるかは非常に重要な論点と考えている。現在の金融システムは、国有企業に国有銀行が資金をばら撒くシステムであり、故に既存システムの心臓部であるため、中国の「いま」が凝縮されている部分でもある。

目下のシャドーバンキング問題をどう解決していくのか、あるいはマンション投資や本業のビジネスで莫大な富を生み出した新興実業家たちが、どう国内で政治力を発揮していくのか、どう外国との関係を作ろうとしているのか、この辺りを中心に今後もリアル・チャイナの実態に迫るべく研究活動を続けていく所存です。


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