ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

リアル・チャイナとジオポリティクス(1)

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「これからはアメリカと中国が覇権を競う時代だ。」


時を遡ること2012年7月、国際政治学の世界的権威であり、クリントン政権の中枢を務めた経験を持つジョセフ・ナイ教授は、ハーバード大学の広い階段教室を睨みつけるように学生に向かってこう言い放った。

そしてこう続けた。

「中国の発展は目覚ましい。改革開放以来30年掛けて急激な成長を遂げた中国の世界における経済規模は、既に18世紀の清朝全盛期の水準が視野に入ってきた。アメリカ衰退論はこれまで何度となく主張されてきた。1950年代にはスプートニクショックを起こしたソ連、1980年代素晴らしいテクノロジーで世界を席巻した日本、そしてこれからは米中の時代となる。」

ナイ教授は続ける。


「中国が仮に米国のGDPを凌駕したとしても、中国は軍事力、経済力などのハードパワーを持っているに過ぎず、米国には中国にない民主主義に基づく市民社会というソフトパワーがある。米国はソフトパワーによって世界の主導的立場を堅持する。」

ナイ教授は前述の経歴に加えて、ケネディスクールの学部長を長年務め、厳しくも丁寧に学生を指導することで定評のあるスター教官として認識されている。実際この日の講演のテーマも「スター教官による講演」というタイトルであった。

講演のテーマは教官の自由設定であり、誰もがナイ教授の専門分野であるアメリカ外交や国際政治についての講演であろうと予想していただけに、講演内容のほとんどが中国、とりわけ中国に対抗するアメリカ、というテーマであったことは驚きとして受け止められた。階段教室にひしめく世界中の約60ヵ国から集まる200名の社会人大学院生達は否が応でも「米中時代の幕開け」を実感することとなった。


アメリカと中国、この強力な二つの大国に挟まれ、日本はどう存在感とリーダーシップを発揮していくのか、このマクロ戦略を考えていくことは、自分にとってのライフワークといえる壮大なテーマです。

またその問題意識の下で、あまり日本の方が出入りしないようなアメリカや中国の特殊なロケーションで、自分自身が見聞きしたことを、ご覧頂く方にお伝えすることがこのブログの趣旨でもあります。

以前の投稿「純粋ドメスティックが考えるグローバル人材(6) 」において、グローバル人材の要素として語学力に加えて、ジオポリティクス(地政学)の知見についてご紹介したところ、ご覧頂いた方から「現在の状況下で、日本企業にとっての中国ビジネスの成功要因はなにか?」とのご質問を頂きました。

非常にポイントを突いたご質問であると感じました。「アセアンシフトは妥当な判断か?」において反語的に問い掛けた日本企業の動きも、単に人件費が東南アジアが安いからという理由だけではなく、この難しさを背景としていると感じています。

ジオポリティクスの観点で「中国との付き合い方」が最も頭を悩ませる問題であり、かつ経済権益(ビジネス)の観点でアップサイド・ポテンシャルも最も期待できる領域です。であるからこそ、「ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ 」でご紹介した通り、自分自身も中国を研究対象とし、ディープに現場に入っています。

今回のシリーズ「リアル・チャイナとジオポリティクス」では、これまでの投稿を総合しつつ、新たな論点も加えながら、この壮大なテーマについて、後々の検証に耐え得る仮説を検討していきたいと思います。

以下、「リアル・チャイナとジオポリティクス(2)」へ続く。


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