ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

リアル・チャイナとジオポリティクス(2)

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まずいくつか自分自身が体験したエピソードをご紹介します。

2012年8月、筆者はハーバードにて中国に関心を持つ学生(中国人、日本人、アメリカ人など)を集めた勉強会の企画を進めていた。自分以外に中国人の女性幹事を立てて、それなりに人数が集まりそうな感触が得られてきたので、実際の顔合わせと初回の勉強会の日程を決めるところまで企画が固まってきた。


この時期、折から悪化してきていた尖閣諸島の問題は、最悪の展開を見せていく。9月に入り野田総理による国有化の実行と、それに伴い中国全土で日本に対する反日暴動(※中国では反日「活動」と表現している)が展開され、中国人暴徒によって日本企業の工場やデパートなどが焼き討ちされたり、破壊の対象とされた。

こうした様子は、普段CNNやBBCを流すハーバードの大型スクリーンでも放送され、日本人、中国人以外の国籍の学生も間近に見る事態となり、「ただならぬことが起きている」という認識が、教官と学生の間で広がっていった。


燃え上がる日本のデパートを映し出すニュース映像を、大型スクリーンで眺めていると、アメリカ軍から派遣されている同級生が通り掛かり、「こんな光景を見せられて、日本人としてどう思うのか?」と聞かれた。

なんとも答えようのない質問だった。「いやむしろ俺の感想ではなく、中国人としてどう思うのか聞きたいところだ」と答えた。友人は渋い顔をして「やっぱり日本と中国は仲悪いんだろ?おまえ個人は関係ない、仕方ないんだよ」といって、筆者の肩をポンと叩いて去って行った。

中国にも日本にも住んだこともなく、アジアの歴史を深く学んだことのないアメリカ人の友人にとって、これ以上分からないが、最大限筆者自身をフォローしてくれたのだと感じている。


アメリカでの報道の仕方は、視聴者にほとんど日本人が含まれていないだけに気を使う必要はなく、それだけ露骨だったと思う。「日本に(戦争時代の)仕返ししてやった」と、ドヤ顔の中国人女子中学生が出てきた。この子供に見える女子中学生に、親や教師はどんなシツケや教育をしているのか、正直メラメラと感情が高ぶってくるのが自分でも分かった。


こうした状況下、中国勉強会の中国人幹事に連絡を取った。彼女は、「学期が始まりとても忙しくて、ちょっと手が回らなくなってきた」と企画の延期を提案してきた。実際に学期の開始時期は、極めて忙しかったことは事実であり、筆者自身も捌き切れなくなっていたので、「じゃあ、手が空いてきたら是非やろう。」と伝えて、2週間に一回ぐらいの頻度で、「そろそろ、どうだろう?」と聞くようにした。


真偽の程は定かではないが、今でもこれは筆者を傷付けまいとする断り文句であったと感じている。筆者としては、反日暴動の後、中国人たちの本音を直に聞いてみたいと思っていた。普段ならできるかどうかは分からないが、感情論のぶつけ合いではない冷静な議論が、アメリカで留学生同士ならできるかも知れない。


「そろそろ、どうだろう?」を何度か繰り返した後、11月に女性中国人幹事から「二人で会いたい」と呼ばれることになった。彼女は開口一番、「もう感じていると思うけど、いま日本人と中国人で企画をやることは難しいと思う」と言ってきた。

彼女は続ける。中国人同士で「この問題」について集まって議論をしたと、その中では特に若い世代から非常に過激な発言が連発し、全くもって冷静ではなくなっていると。彼女の捉え方は、「打倒日本を叫ぶことが、愛国心の表現であり、一種そういった愛国心の競争のようになっている」と言っていた。

これを聞いてとてもガッカリしたことを今でも覚えている。なんと言えば、その当時の心境をご理解頂けるだろうか。「何も知らない無知な女子中学生が色々テレビで言っていたと思うが、気にしないで欲しい、大人の中国人は冷静だ」と建前でも良いから言って欲しかったのである。


筆者自身が日本人である以上、打倒日本で決起する人々とは、協力する余地はないことは明白だ。この状況下、どうするべきか?あるいは、「リアル・チャイナとジオポリティクス」をテーマに、わざわざ遠路はるばるボストンまで留学に来た筆者の命運はどうなってしまうのか(笑)、非常に暗澹たる気持ちを抱えていたことを鮮明に覚えている。



以下、「リアル・チャイナとジオポリティクス(3)」へ続く。

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