ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

リアル・チャイナとジオポリティクス(3)

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ボストンの夏は緑で埋め尽くされ、太陽に照らされたレンガの建物とマッチして、言葉で表現できないほどの素晴らしい風景となる。ただしボストンの秋は短い。11月には雪が降り始め、12月には氷点下が当たり前になっていった。

筆者が滞在していた際のボストンは、特に記録的な厳冬であり、1月から2月の最も寒い時期には氷点下10度以下の日が連続し、ハーバード大学付近にある「チャールズ川」が完全凍結することになった。コーヒーをこぼせば、即座に氷結し始めるような低温であり、耳を出したまま外出すると帰宅時に耳がシャリシャリと凍結しているような世界だった。

 

話題をリアル・チャイナとジオポリティクスに戻すと、「打倒日本を叫ぶことが、愛国心の表現であり、一種そういった愛国心の競争のようになっている」と言われてから以降、ずっと考えていた。自分の脳裏によぎったイメージは、昔小学校時代に学校で読める唯一のマンガだからという理由で、図書の時間に好んで読んだ「はだしのゲン」に出てくる「鮫島町内会長」だった。

鮫島町内会長は、「打倒鬼畜米英」と事ある度に絶叫し、アメリカ軍の大型爆撃機B29が攻めてきたら竹やりで徹底抗戦すると主張するかなりの精神論者として描かれており、それに異議を唱えるゲンの父親を非国民と非難し、特高警察への密告など、あらゆる方法でプレッシャーを掛けるという役回り。

もちろん鮫島町内会長は実在した人物ではなく、マンガであり戯画化されているものの、手塚治虫のマンガにも同様のキャラクターが出てくるので、戦争中の「愛国者」のひとつの姿であっただろう。


いまの日本人にとっては、B29を竹やりで撃ち落とすと非科学的な主張し、反対する者を「非国民」とレッテルを張って社会的抹殺を目指すような人物は、どう考えても真の愛国者ではないと思う。むしろ敬遠したい人物の筆頭格ではないだろうか。

しかし、デパートや工場を焼き討ちしておいて、それを「打倒日本を叫ぶことが愛国心の表現」と言い切ってしまう人物が、どうやら現代の世界にも存在する。どうしても鮫島町内会長に重なって見えてしまう。

本人は極めて真剣であろうから、なおさら手が付けられないであろうし、そういった極端な主張をする人物を近づけないためにも「中国勉強会を無期限延期」しようと提案してきた女性中国人幹事の判断は適切に感じられた。

彼らの本音は聞いてみたかったが、聞くことでお互い感情的になってしまうのであれば、何の意味もない。

どうアプローチすれば良いか考えている内に時間が過ぎ去っていった。


この悶々とした思いは、ある種のショック療法によって表明せざるを得ない日が来た。筆者はハーバード留学中にさまざまな方面の人脈を開拓することに時間と労力を注いだが、その中には中国政府の高官の方も何名か含まれていた。

中国であれば、日本の一部上場企業の社長が頼んでも、決して会えないようなポジションの人々が、普通にハーバードの街中を歩き、時に授業を見学したりセミナーに参加したりしていた。彼らはアメリカ生活をエンジョイしようとしていたし、外国人学生との対等なキャンパスライフをエンジョイしようとしていた。筆者は仲良くなったこうした方々に、次第に自分の秘めたる日中関係に対する思いを話すようになっていった。

その中で、「ハーバードの最強語学プログラム (5)」でご紹介した中国語のプレゼン内容、孫文を日本人が強力にサポートした話を引き合いに出して、「両国は原点に戻るべきだ」という話を伝えるようになっていた。

孫文は中華圏では、近代化の父として圧倒的な支持を受けている中国人のヒーローである。晩年の政策に賛否が分かれる毛沢東以上に、多くの中国人から愛されている英雄であり、その孫文が独力ではなく日本のサポートを受けているという事実は、中国人に余り知られていない衝撃的な事実であった。

本国に戻れば、相当なポジションと権力を持っているであろう、こうした人々は筆者が語る「失われた日中友好の歴史」の話を反対する訳でも、賛成する訳でもなく、ウンウンと聞いているのであった。筆者も時期が時期だけにあえて「どう思いますか?」とは聞かなかった。

ある日突然、驚く展開が起こり、筆者は予想もしない事態に投げ込まれることになった。


以下、「リアル・チャイナとジオポリティクス(4)」へ続く。

 

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