ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバード大学は巨大投資ファンド(4)

f:id:madeinjapan13:20131203131629j:plain

続いて、ハーバードは「大学」として、どういった体制で、どういった対象に投資を行っているのかについてご紹介したい。


最大の特色は、「ハイブリッド・モデル(リンク先ご参照)」と呼ばれる体制である。ハイブリッドとはハイブリッドカーが、ガソリンと自家発電を組み合わせているように、二つの異なるアプローチを統合する戦略であることを意味している。

具体的には、ハーバード自身が具体的な投資先企業を見つけてきて直接投資する部分もあり、一方で、その分野で一流のアセットマネジメント会社を見つけてきて、資金を預けて代わりに投資をして貰う部分もあることを意味している。つまり、自分でも投資する部分もあり、他のプロに委託する部分もある。

アセットマネジメント会社を間に入れると、手数料を支払う必要があるため投資リターンは低くなってしまうデメリットがある。

一方で、手数料を節約するために、自社内に投資チームを作ってしまうと、その分野への投資を打ち切る際に、担当者を解雇する必要があり、機動的に投資ポートフォリオの変更が難しくなるデメリットがある。


ハーバードは本来が研究機関であるため、個別企業の業績予測に最も強みがあるというよりは、このブログでも度々ご紹介してきたジオポリティクス(地政学)や、政治経済のマクロの流れを把握することに最も強みがある。

従って、マクロ政治経済の流れ次第で、機敏に投資対象を組み替えられる自由度を確保しながら、アセットマネジメント会社への手数料を節約することを目指すことに合理性があり、結果「ハイブリッド・モデル」を採用していると考えられる。



例えば、ハーバードの卒業生の中に「中国でベンチャー起業したい」中国人の学生がいるとする。これまでご紹介してきた通り、大学は各種の起業支援のプログラムを持っているため、そういったプロセスを経て事業の成功確度を評価した上で、直接投資することもできる。

また、大学基金はベンチャーファンド(いわゆるVC)にも投資運用委託を行っているため、その中国人学生を紹介することで、VCに自分達に代わって評価、投資をして貰うこともできる。

特に大学が得意とする基礎研究に近い分野であればまだしも、商業ベースのハイテク起業(例えばFacebook)ということになると、技術的な価値以上に、商業的な価値が重要になるため、当該マーケット動向に精通したVCを通した方が無難と判断される場合も多いと思う。


また、リアルアセット投資の分野では、ハーバード自体が直接「森林」や「農地」に大規模な投資を行っている。全体の30%を占めるリアルアセット投資の内、半分以上、つまり約5000億円が森林や農地に投資されている。

例えば一例を挙げると、ハーバード大学基金は、ニュージーランドの森林を2003年に17万ヘクタール購入した。広大と言われている東大農学部の演習林も、全国すべて合計して3万ヘクタールと言われているので、ハーバードのニュージーランド森林投資の規模の大きさが想像される。

森林投資を含めたリアルアセット投資を、魅力的な投資対象にしている要因は「中国」である。総合商社各社の業績が21世紀に入って大きく向上した理由も同様で、燃料や、金属資源、あるいは森林などのリアルアセット投資した権益が、中国の急激な経済発展によって需給が逼迫し、価格が高騰したことが最も大きい要因である。

特に燃料や金属は、資金を投入すれば「より多く産出すること」が、ある程度技術的に可能である一方で、森林で育つ木材は、資金を投入すれば早く育つという訳でもないので、中国を初めとした新興国が急激な成長を続ければ、燃料、金属以上に需給が逼迫して価格が高騰するという特色を持っている。

ボストンから遠く離れたニュージーランドの森林が、「演習林」ではなく、「投資対象」である以上、この値上がり感にこそハーバードの着眼点はある。実際ハーバードはこのニュージーランドの森林を最近部分売却し、巨額の投資利益を手にしている。



次回最後の投稿では、筆者が考える「日本がアメリカから学ぶべきノウハウ」についてご紹介したい。

以下、「ハーバード大学は巨大投資ファンド(5)」へ続く。

 このブログの記事一覧へリンク