ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ケネディスクールで語る日本とアメリカ、東アジア情勢の歴史と未来(4)

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直近2013年12月に実施された調査は、日本ではあまり重視されていませんが衝撃的な内容であり、アメリカ国内政治の「変節点」を如実に表しています。


ひとつは日本の外務省が行った一般のアメリカ人(1000人)を対象とした「アジアで最も重要なパートナーは?」という調査です。日本と答えたアメリカ人は35%、中国と答えたアメリカ人は39%という結果が出ています。言うまでもなく、これまではこの種の調査では日本の圧勝であり、中国を仮想敵国とすら答えるアメリカ人も多かったぐらいなので隔世の感があります。

また、同じ外務省の調査で特筆すべきは、日米同盟(日米安保条約)を維持すべきかという質問に対して、2012年は89%が賛成したのに対して、2013年調査では賛成が67%まで大幅に低下している。

またこれとは別のテーマ、CNNが行った調査ではアフガニスタン戦争の「不支持率」が82%と結果発表されています。あの全米中に反戦運動が広がったベトナム戦争ですら不支持率が60%を超えたことがないことを考えると、アメリカはかつてないほどに戦争嫌いになっていることが分かります。

アメリカ国内世論を総合して考えれば、「中国も日本も大事なパートナーだが、他国の武力紛争に参加はしたくない」というのが、アメリカ人の一般的な世論ということになります。

前回の投稿の通り、外交政策は国内政治の影響を多大に受けます。実際に、アメリカ政府は忠実に国内政治の動向に対応する政策を採っており、以前の投稿「尖閣問題でアメリカの姿勢が中途半端な理由」でご紹介した通り、敢えて中途半端なスタンスを取っていると考えています。


重要な点は、アメリカは在日米軍を維持しながら東アジア地域に「抑止力」の睨みを効かせたいと同時に、本当に同盟国・日本で武力衝突が起こり、集団的自衛権の発動を要請され、日米同盟の「踏み絵」を踏まされることは最も避けたい事態ということです。

ある日、たとえば日中で武力衝突が起き、踏み絵を踏まされた結果、日本のアメリカに対する幻想が崩れ、日米同盟が破綻する日となってしまう危険性があるため、あらゆる手段を使って、「日本、中国どっちが大事?ファイナルアンサー?」と聞かれないようにノラリクラリ誘導したいというのがアメリカの国益ということになります。

小泉首相が靖国参拝した際にアメリカ政府は「容認」のスタンスを取りましたが、その当時はアメリカ自身がアフガニスタン、イラクで大戦争をしている真最中であり、むしろ日本にアメリカの中東戦争にできる限り加勢しろ、と要求している立場でした。

今回アメリカが一転して、安倍首相の靖国参拝に「失望」の念を強調した理由は、一連の中国を刺激する政策が、両国の好戦論を高めてしまい、結果不測の武力衝突を惹起することでアメリカが「踏み絵を踏まされる」ことに懸念していると考えています。


一方で、非常に意地悪な見方をすれば、武力衝突に至らない程度に日本と中国が対立してくれることは、アメリカ産業界の利益になっています。中国という非常に魅力的な消費市場に参入する外資系企業として、日本とアメリカは強烈なライバルです。

領土を巡り、中国の国民感情が悪化することで、日中貿易や日中ビジネスが後退すれば、その間隙を縫う企業はアメリカや欧州であることは、もう少し意識されるべき事実と思います。アメリカでは特に、政治はこうした企業の利害に大きく影響を受けています。


つまりアメリカの立場に立って考えれば、日米同盟が発動されるぐらいのリスクのある緊張関係は避けたいけれども、日中は適度に対立してくれてアメリカ企業の利益が増える、というのが最適解のはずです。逆にいえば、年末の安倍首相の靖国参拝は、日本人がどう感じているかは別として(世論調査では50~70%が賛成)、「本当に」軍事衝突を誘発しかねない行動と、アメリカ政府(国務省)が判断したことが推測されます。


以下、「ケネディスクールで語る日本とアメリカ、東アジア情勢の歴史と未来(5)」へ続く。