ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

中国経済はダメになるのか?

f:id:madeinjapan13:20130527151932j:plain

中国経済はダメになるのか?と良く質問を受ける。中国にネガティブな印象を持たれている方からは、中国経済は「やっぱり」ダメになるのか?と質問される。ネガティブなバイアスを持っている人々の方が、知りたい意欲が高いため、結果としてメディアに溢れる情報は、悲観論者をメインターゲットにしたものが多いように感じる。

 

この問い掛けは、かれこれ10年近く続いている多くの人々の関心事だと思う。少なくとも2005~2006年にヘッジファンドの仕事をしていた頃には、「中国の成長は北京オリンピック(2008年)がピーク。オリンピックの後に猛烈な失速が待っている。」とまことしやかに言われていた。

結局大多数の専門家の予想は外れ、少なくともこれまで急激な失速は起きていない。むしろ2008年ピーク説を唱えていた欧米の金融界自身が、皮肉にもサブプライムショックで奈落の底に落ちる結果となった。

 

ダメになるの「ダメ」の定義にもよるが、中国経済がメチャメチャの状態になることを意味するのであれば、近い将来ダメにはならないと考えている。多くのエコノミストが分析するように、いまのところ中国政府は十分に中国金融マーケットをコントロールできるだけの資金と権力を保持している。数ヶ月以上先の将来ダメになるかどうかは、後述のリーダーシップがどの程度発揮されるかによると考える。

 

6月に銀行間インターバンクレートが急騰した出来事があり、それをもって「中国版サブプライム・ショック」と報道されたりもしたが、インターバンクレートを政策誘導目標としていない中国(公定歩合管理)に、日本や欧米の常識を当てはめても適切な分析にはならない。

似た認知バイアスとして、アメリカのエコノミストと会話していると、しきりに「日本の国家財政破綻」を確信する人々に遭遇する。(日本でも同種の本をしばしば見かける。)財政破綻と国債の暴落でひと儲けしたいヘッジファンドと、アドバイザリ契約でも結んでいるんだろうかと勘繰ってしまう。実際によく話をしてみると、政府の負債がGDPの200%に達してしまっていることに過敏反応しているだけで、日本の国債引き受け先である年金、生保、メガバンクの社内投資決定プロセスや、日本政府との間の政治力学を知らないケースが多い。こうした議論は現地の特殊事情の把握が不可欠である。 

f:id:madeinjapan13:20130427142605j:plain

目先の破滅的な崩壊リスクよりも、むしろ深刻な問題は、これまで成長のドライバーとなってきた政府主導の「殖産興業」が機能しなくなってきている問題である。中国のかつての売りであった人件費は上昇を続けており、ルイスの転換点と呼ばれる生産年齢人口も減少に転じつつある。これまでの「低賃金で世界の工場」になるという戦略が通用しなくなってきている。

ここまでの成長の多くは、日本や韓国などの先行企業の技術やノウハウを、より安い賃金で作っていくという戦略であったが、今後は高くなってきた賃金にも耐え得るだけの付加価値の高い商品を作る、つまり産業の高度化を実現しなければならないため、コピー商品ではなく独自技術やイノベーションが必要となるはずである。

 

これまでの「低賃金で世界の工場」時代は、中国政府が大規模インフラ開発を行い、高速道路、高速鉄道、住宅等の不動産開発を実行し、銀行は政府系プロジェクトに資金を分配することに注力してきた。今後イノベーションを喚起するためには、銀行は安全な政府プロジェクトだけでなく、技術はあるが財務安全性が良く分からない民間企業や、中小企業にもビジネスの対象を広げる必要がある。

国としてそれが必要であることは分かるものの、新しいことへのチャレンジはリスクがあり、また面倒くさいものである。当然の如く、中国の銀行は新しいチャレンジに対して消極的であり、あるいは多くのケースにおいて改革の抵抗勢力となっている。地方の政府プロジェクトで積み上がっている不良債権というのは、安全が確保されたビジネスに安住したい銀行が、採算が見込めないプロジェクトであるにも関わらず、緩い審査で政府保証付きの融資を行った結果である。

 

こうして中国経済を眺めてみると、まるで小泉構造改革の頃の日本を思い出す。ヒグマしか通らない道路を作り続けたと批判されていた。変わらなければならない、と分かっているけど変われない(つまり本音は変わりたくない)人々をどう動かしていくのか。

この段階に至っては、非常に激しい利害対立を政治家を初めとした国のリーダーが、うまくまとめていけるかに全てが掛かっている。固有名詞で中国国内の人物や相関図が見えてくると、「半沢直樹」のような権謀術数、手練手管の壮絶な戦いが見えてきて非常に興味深い。中国において権力争いに敗ければ、「根室に出向」では済まないだろう。従って数ヶ月以上先の中長期の予測をする上では、習近平李克強を初めとした中国式リーダーシップを細かく分析することが重要であると考えている。