ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバードの最強語学プログラム (1)

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筆者が留学を決断した時には、ひとつの野望があった。「せっかく仕事から離れるのだから、仕事をしていてはできないことをしてやろう」と。そのひとつが語学であった。

留学前に東京でお会いした、某有名ITコンサルティング会社の社長の方のアドバイスも背中を押した。ご自身もアメリカ留学経験を振り返って、「留学中に第二外国語をやっておけば良かった。仕事復帰すると時間がないからねえ」と。その方は、社長に就任した後、時間を見つけて中国語を勉強されていると仰っていた。そういえば、楽天の三木谷社長も中国語を勉強されていると聞いたことがある。

極めつけは、留学前に東京でお会いした某人材コンサル会社(要はヘッドハンター)の一言。「ハーバードには最強の語学プログラムがあると聞いてます。なんでも半年あれば、その言語がマスターできるらしいですよ。」 は、半年!?普通は語学の習得には2~3年は最低必要とするはずであり、半年でそれができるプログラムとは一体どんなものなのか!?話を聞いていて思わず前のめりになってしまったことを覚えている。

 

実はハーバードに留学する時点で、そこそこ中国語は勉強していた。期間にして半年強だろうか。半年とはいえ、その期間は中国(上海)にずっといたので、中国語で最も難しいと言われる発音への慣れという意味では、かなり耳が慣れている状態であったし、もともと日本人にとっては中国語の「読み、書き」は西洋言語に比べると圧倒的に楽なので、自分自身では中級ぐらいになっているという実感を持っていた。

 

ハーバードに到着早々、「最強の語学プログラム」についてリサーチを始めた。どうやら大学生(学部)向けのプログラムらしい。筆者が所属していたケネディスクール(大学院)の立場で履修するためには、特別な許可が必要とのことであった。さっそくケネディスクールのプログラムディレクターに相談してみた。

開口一番彼女が言った言葉は印象的だ。「語学への履修登録は推奨しません。ケネディスクールの授業との両立は過酷過ぎる。両立できるとは思えないからです。」このコメントは今振り返ると逆効果だったと言わざるをえない。筆者は昔からこういわれると、逆に燃えてしまう習性があるのだ。「そこまで言うなら、やってやろうじゃねぇか」と眠れる千葉のヤンキースピリッツが湧き上がってきた。

しかしアメリカの凄いところは、こうしていきり立ったアジアの留学生を止めることはない。さすがはスティーブ・ジョブズや、ビルゲイツのような異端児を生んだ国である。この先どんな過酷な境遇が待っていようと、この訳の分かっていないアジアの留学生がもしかしたら卒業できなくても、「自己決定」を最優先に考えるのである。つまり、止めてくれない。「最後はあなたが決めて下さい」と言ってプログラムディレクターとの面談は終わった。

 

更に傷口を広げたのは、中国語のレベル選択である。大学のイントラネット上に掲載されている中国語の科目を見ると、初級、中級、上級など各レベルに対応した複数の授業が開かれているようだった。正直、多少プログラムディレクターの助言も気になっていたので、中級か、場合によっては初級に落とすことも念頭に置きながら、中国語のインストラクターを訪ねた。中国語のインストラクターは黒竜江省出身の中国人で、自分と同い年ぐらいか、多少上に感じるぐらいの女性であった。

彼女を初めハーバードの語学インストラクターは、校内で英語の使用を禁止しているため、会話は全て中国語に切り替わった。「中国語はどれくらい勉強しているの?」と質問され、「半年ぐらい、上海では一年半ほど仕事をしていた」と答えた。その後、中国での生活や、アメリカでの計画など、ひとしきり話して、筆者の中国語のレベルを自分なりに測定したインストラクターは、「私は中級のクラスだけではなく、上級のビジネス中国語も担当しているから、そっちの授業にしたらどうかしら?あなたはビジネスマンだから、ビジネス中国語が必要でしょう」と言われた。

いや、それは流石に無謀だろうと思った。ただでさえ到着したばかりの環境で、無理に無理を重ねることになる。気合で乗り切れるのも限度というものがあることは、これまでの筆者自身の経験から痛感している。

インストラクターが畳み掛けるように言う「みんなできるようになっているわよ」。なんと、みんなできているのか。こう言われると、アップサイドしか見えなくなってしまう。「じゃ、いっちょやってみっか」という気持ちがフツフツと湧いて来てしまった。半年で言語マスターできる最強の語学プログラムなのだから、目標は高く、上級ビジネス中国語としようと、今振り返れば自分で自分を納得させて、「最強の上級ビジネス中国語」を履修することになった。中国語インストラクターとの面談の後に、語学の履修登録を済ませた。

その後、再びケネディスクールに戻り、プログラム・ディレクターに、「上級ビジネス中国語を履修することにしました」と伝えた。凍り付いたプログラム・ディレクターの顔が忘れられない。「ま、大変でしょうけど、がんばって」との冷たいアドバイスを背中に受けて、退路を断った最強の語学プログラムへの挑戦が始まった。

 

以下、 「ハーバードの最強語学プログラム (2)」へ続く。

 

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