ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

純粋ドメスティックが考えるグローバル人材(6)

f:id:madeinjapan13:20131012030713j:plain

日本で忘れられた地政学という言葉」でご紹介した通り、欧米列強は、東インド会社など帝国主義の時代から、軍隊を動かすと同時に、資源権益や消費市場などの経済権益を確保し、それを本国に収益還元してきた長い歴史を有しており、必然的に「海外ビジネス」を考える中核に地政学を据えている。

また、戦前の日本は欧米列強と同様に軍事力を持ち、海外権益を経営していたという点で、現在の日本人も眠れるDNAを持っていると考えている。戦前海外権益を開拓した三井物産の「三井物産筆頭常務 安川雄之助の生涯」商社マンの話と、戦後海外マーケットを開拓したSONY創業者盛田昭夫氏の「MADE IN JAPAN」の話は、どちらも今日の日本人にとってかけがえのない遺産を残してくれていることは間違いないが、両者の海外市場へのアプローチは全く異なるものである。

よりマクロに捉えれば、盛田昭夫氏時代の日本の置かれていたポジションは歴史上非常に稀なものであったといえる。日本は冷戦時代、極東の「防共の壁」であり、ジオポリティクスはアメリカにアウトソースし(させられ)、逆に賃金が安く、教育水準が高く、細かい作業が得意な国民性は、大雑把なアメリカ人の製造業との補完関係があったという意味で相性が良かったため大きく成長した。

いま中国の台頭が、戦後続いた冷戦時代のジオポリティクスの大きな基盤を覆そうとしている。アメリカの中で、中国との二大グレートパワー(G2)による安定した世界秩序を目指す意見が増えていることにより、日本の存在意義は低下し、アメリカとしても日本をサポートするメリットよりもデメリットが目立つように次第になってきている。日本としての独自のジオポリティクスの知見の蓄積と、独自のネットワークを通じた海外権益の経営の重要性が高まってきていると感じている。

この点中国の動きは逆にとても参考になる。現時点でアメリカと中国の国力の差を考慮して、「未だ中国は大国としての責任を果たす段階にない」と、一旦はアメリカの統治に対して恭順の意を示している中国だが、海外権益の観点では、アフリカや東南アジアへの投資において独自の動きを示している。アメリカに追随して、アメリカ企業が出ているところで安全だから投資をする、というのではなく、中国独自の戦略の下で、中長期的に国益に資する「未開の地」を優先して戦略投資を行っている。

ジオポリティクスの観点で21世紀前半に最も強力なヘゲモニーを握るのは、アメリカと中国であることはほぼ間違いがない。両者もお互いをそういったライバル関係にあるものと非常に意識もしている。それが現実のものとなれば、多くの重大な事項は、「ワシントン、ニューヨーク」あるいは、「北京、上海、香港」あたりで決定されていくことになる。ハーバードに留学し、卒業後中国に滞在している筆者の問題意識も、まさにここにある。つまり、アメリカと中国の「コア」部分に近づく必要性を感じている。

多くの国際政治学者は、この冷戦後の地殻変動によって、日本はジオポリティクスの観点で「敗者」になると予想している。代表的なものは、イアン・ブレマー氏の「Gゼロ後の世界」という(この分野での)ベストセラーである。分かり易さを優先して、極端に表現すれば、これまで独自のジオポリティクスの知見を持たず、アメリカに追随してきた日本は「見捨てられ」没落するという見方。もし本当にそうなってしまうならば大変残念であり、またご先祖様に合わせる顔がない、、、個人的にはなんとしても、こうした状況にならないように、微力ながら全力を尽くしていきたい。

 

> このブログの記事一覧へリンク