ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ (7)

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上の写真は、筆者が大好きな「揚州チャーハン」と呼ばれる上海周辺で好んで食べられているチャーハン。黒胡椒のシンプルな味で、悠久の歴史の中で結局長く愛される食事と言うのは、シンプルに美味しいものであると実感する。

前述の通り、中国金融システムは、アングラ金融と理財商品というふたつの「シャドーバンキング」問題を抱えている。筆者の研究テーマである「中国の次世代金融システム」の観点では、こうした諸問題を解決し、中国の経済を安定した発展軌道に乗せるためにはどういった方策が考えられるかを検討していくことになる。

まず注意が必要な点は、「中国金融システムに問題がある」イコール、即「中国経済崩壊」とはならないということ。中国のあらゆる社会制度は、中国政府の強力なコントロール下にあり、市場経済に生きる日本人や欧米人の想像する世界とは全く異なることが多い。

従って、一旦は欧米の常識を脇に置いておいて、中国のスタンダードを知った上で丹念に詳細を見ていかない限りは、この巨大な国のシステムがどの程度のリスクがあり、また将来どう変化していくかを見通すことはできないと感じている。

端的な例は、6月の「SHIBOR危機」と呼ばれる上海のインターバンクレート(銀行間の短期資金の貸出金利)急騰事件。直前7.7%だった同金利は、一日にして13%超まで急騰した。

筆者も2008年のサブプライム金融危機の際にポジションを取っており、その時にアメリカのインターバンクレートが急騰したのを間近で見ていた。リファイナンス(借金の借り換え)を予定している投資家にとって、インターバンクレートの急騰は戦慄が走る。

つまり最も信用度が高い銀行ですら、また極めて短期の借り換えですら不可能になる事態を意味しており、それは借り入れを行っている多くのマーケット関係者にとって「死」が予定されることを意味している。金融危機の際に「Cash is King」あるいは「Cash is God」と言われる理由であり、マーケットで貸出資金が蒸発する際には現金を持っているプレーヤー以外はほぼ全員死に至る。

但し欧米ではインターバンクレート(いわゆるLibor)を基準金利にして、自由なマーケットでリファイナンスが行われているが、中国は金利の自由化を行っておらず、未だ中央銀行が発表する貸出金利が基準金利となっている。インターバンクレートは、銀行の調達環境を判断するための指標にはなるが、急騰したことが即マーケット参加者全てに影響が波及する訳ではない。

6月の「SHIBOR危機」が炙り出したポイントは、欧米の専門家ですら中国の金融システムや経済システムについて、あまり熟知していない可能性が高いということではないかと思う。あるいは理屈では理解していたとしても、皮膚感覚での理解に至っていないのかも知れない。直にこの広大な中国大陸を歩き回って、現場の生情報に触れることの重要性を痛感する。

一方で「中国の次世代金融システム」の観点で注目すべき成長産業は、リースやアセットファイナンスなどの銀行とは別ラインのノンバンクセクターと思う。中国の銀行セクターは前述の通り、未だに旧態依然とした国有企業の行風を色濃く残しており、マーケットベースの信用リスク市場を創造していく担い手としては、ややスピード感と実際の実務能力に欠けている。むしろ強力な既得権益を持つ、改革の抵抗勢力にすらなっているかも知れない。

起業家精神旺盛なノンバンクセクターが、どの程度成長し、それが銀行セクターの不完全性をどう補完していくのか、という点が今後の中国金融システム、及び将来の中国経済の成長力を見極める上では非常に重要ではないかと感じている。この点、ネット大手のアリババ(阿里巴巴集団)が取り組んでいる、ネット取引での信用リスクデータベースを活用した中小企業ファイナンス事業や、プライベートエクイティファンドが取り組んでいるリースやノンバンクのベンチャー企業が、今後どう発展していくのか、この辺りを注意深く見極めていきたいと考えている。


以下、「ハーバード研究員が見たリアル・チャイナ (8)」へ続く。


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