ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

リアル・チャイナとジオポリティクス(8)

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ご紹介した体験談や、筆者の中国ビジネス経験を通じて、ブログをご覧の方々にお伝えしたい「中国との付き合い方」の重要なエッセンスは、「本当の本音を人前で聞くことが極めて困難」という中国人の行動特性と考えている。


中国の気遣い文化、あまり日本では認知されていないかも知れないし、むしろ正反対の国民性として理解されているかも知れないが、中国人の、特に教養人の相手のメンツへの気遣いは実はもの凄い。中国語では「客気(クーチー)」と呼んでいるが、例えば「ハーバードの最強語学プログラム」でご紹介したハーバードの中国語のテキストにも、かなりのページ数を割いて、「客気文化」についてアメリカ人学生に説明をしている。

例えば卑近な例では、「映画に行きませんか?」と誘われた場合は、教養のある中国人ならば礼儀正しく、婉曲的に「ちょっと考えて、予定を確認してからお答えします(考虑考虑再说吧!)」と答えるとテキストに書いてある。「行けません」あるいは「行きません」と言えば、相手に対して失礼になるからだと。

アメリカ人学生よ、これを額面通り受け取って、本当に数日後「で、行くの?行かないの?」と聞いてはいけないと注意喚起がなされており(笑)、既に「あとで答えます」と言われた時点で、本当は断られていることが含意されていると注釈がなされている。


注:この行間の読める繊細なアメリカ人も、もちろん存在する。一応念のため。


客気文化が、共産主義トップダウン型組織原理と合わさった結果、最近の話題に乗せて表現すると「半沢直樹」の世界が広がっている。エピソードの中でご紹介した通り、上司の見解には表面上絶対服従、斬新な意見は多くの場合求められないだろう。

別の言い方では、「臥薪嘗胆」と「面従腹背」の世界、権力者に対しては表面上服従の意思を示しながら、ヒタヒタと復讐の機会、下克上の機会を狙い続け、いずれその思いを果たす。

大部分の上昇意欲のある優秀な中国人は、ある種「究極の組織人」と感じている。日本の伝統的大組織の人間がそうするように、国家(会社)の方針に基づき、上司の考えを最大限尊重し、その枠の中で気の効いたことをコメントすることで評価を高めていく。

尖閣問題」や「日本との関係」というテーマも、自分が優秀でバランス感覚のある伝統的中国式リーダーであることを示す題材であり、当然上司である中国政府が「強硬姿勢」に傾けば彼らのバランス感覚も「強硬派」に傾き、政府が「協調姿勢」になれば「協調派」になんとなく振り子が戻るというイメージである。あるいは、どっちが優勢か見極めがつかない時には、黙して語らず意見を留保する、こういった行動特性を感じている。まさに優秀で将来有望であればあるほど、リスクを取って公然と本音を語らない。



一方で、客気文化なので、筆者が参加していない中国人同士の会では言いたい放題だったとしても、当事者である筆者が参加した懇親会では、アメリカ人女性の発言に便乗する中国人は一人もいなかった。彼らにとって、面と向かってそこまで言うことは「失礼」であり、筆者の「メンツ」を潰すという気遣いの感覚があったと感じている。(例のアメリカ人女性も中国通ならば、少し見習ってほしい、、、笑



一方で、個々人は当然「本音」を持っている。政府高官の前では沈黙して語らず、散会した後に筆者のところに駆け寄ってきた中国人とは、その後本音の議論ができたし、今でも筆者の中国での活動を強力にサポートして貰っている。彼らは声高に主張しないが本音ベースで、日本との友好を望んでいる。またそういった中国人は、マジョリティとまで言わないが、特に国際感覚のある教養人についてはそこそこな割合存在していると感じている。

逆にニコニコと日本企業を誘致している担当官であっても、内心日本を嫌っている面従腹背の人もいるかも知れない。

「中国との付き合い方」において、最も重要で難しいポイントは、相手の本音を知ること、本当の心の友なのか、実は隙あれば陥れようとしている危険人物なのかを察知することではないかと感じている。

 

以下、「リアル・チャイナとジオポリティクス(9)」へ続く。

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