ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバード大学は巨大投資ファンド(2)

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大学でありながら、ハーバードはいかにして3兆円もの資産を持つに至ったのか、週刊誌的な大学特集では見えてこない「巨大投資ファンド ハーバード」のコア部分について、更にご紹介させて頂きたい。


ハーバードの資金運用の特色は一言で、「グローバル分散投資」と表現できる。グローバル投資も、分散投資も、今では誰でも知っていることで、新規性はない。問題は、これを頭で理解することは容易であっても、形として実現することの難しさにある。

ハーバードには、大学が持つ情報ハブ機能を最大限生かして、世界情勢を分析し、地政学リスクを把握し、世界中に投資を実行し、リターンの最大化を実現する体制がある。

日本最大の投資家のひとつ、公的年金を挙げると、資金運用を担当している「年金積立金管理運用(独立行政法人)」のホームページ(http://www.gpif.go.jp/)には、パフォーマンスや投資先の情報が開示されている。

公的年金の約120兆円の資金を投資した結果の年率リターンは、直近12年間平均で約2%とされている。前回の投稿の通り、ハーバードは20年に渡り年率10%のリターンを達成している。

この2%と10%というのは、特に長期で投資を行う場合、結果は決定的に異なる。2%では20年経っても資産は1.5倍にしかならないが、10%ならば6倍以上にも膨れ上がることになる。

そして、現実問題として、ハーバードの資産は6倍以上に増加し、日本の資産はほとんど増えていない。日本がパワーハウスとしての立場を失っていく背景は、産業力や技術力の低下だけではなく、こうした見えにくい「投資力」が致命的に劣後していることに起因している。


なぜハーバードは投資に成功して、日本の投資家のリターンは低いのか。


最大の原因は、日本の投資家の投資先が、「日本国債」に集中していることにある。

たとえば公的年金のホームページには、投資先(2012年度末)として日本国債約62%、国内株式約15%、外国債券約10%、外国株式約12%等と記載されている。

一方で、ハーバード大学の大学基金のホームページの投資先情報(2013年、リンク先ご参照)には、国内債券約4%、国内株式約11%、外国債券2%、外国株式11%、その他約70%と記載されている。

日本の投資家の資金が6割以上もリターンの低い日本国債に投じられている一方で、ハーバードの資金は、僅か4%しか国債に投資されていない。国債は、一般に知られている通り、最も安全な投資対象であるため、リターンも最も低い。

実は日本とアメリカの「投資力」の実力差は、端的にいえば、リスクを取ってリターンに挑戦するか、安全に国債を買っておくだけにするか、という基本的なスタンス、あるいは価値観の違いが最大の要因となっている。

 

筆者が大学生の頃に、「金持ち父さん、貧乏父さん」というアメリカの本が日本で翻訳されて発売されベストセラーとなった。アメリカの価値観を知る非常に興味深い書籍である。いまでもアメリカの書店に行けば、この書籍はベストセラーの書棚にある。多くの人々が金持ち父さんを夢見ているし、ハーバードは「金持ち父さん」を大学自体が実践しているといえる。

個々人の価値観は人それぞれであり、「金持ち父さん」的な思想を好きになれない日本人を筆者も知っているし、アメリカであっても、清貧の中に美徳を見出す人々も、多くはないが存在している。

但し、大学や国家というレベルの話になれば、資金力は国力の非常に重要な一部分であることに疑念の余地はない。「カネが全て」ではないことは間違いないものの、同時に経済力は極めて重要な資源であり、他者に影響を与え自らの理想を実現するために不可欠なツールであると感じる。


ハーバードは、投資リスクを取って生み出した潤沢な資金を活用して、研究や教育の質を高めることに成功している。もし大学基金が国債だけを買っていたら、研究教育の質は下がり、ハーバード大学に対する評価は大きく低下していたに違いない。

また、ハーバード大学は学部入学者の学費を負担できるようになっており、少なくとも学費を理由に「入学できない高校生」がいなくなった。就学機会の不均等という社会問題を、政府に頼らず、ハーバードは自己資金で解決したことになる。

あるいは、潤沢な資金を活用して、ベンチャーファンドがリターンの観点で投資できない、いわゆるソーシャルベンチャー(貧困層向け起業家など)への支援を実行することも可能になっている。

ハーバード大学において、次々に新しい取り組みができているのも、大学基金が果敢に投資リスクに挑戦して、リターンを生み出しているからこそできており、究極的にはこうした「投資力」が大学のパワーやプレステージの源泉となっている。


もうひとつ秘密がある。先程のハーバード大学の投資先として「その他約70%」と書いた箇所である。債券でも株でもない、その他に70%??と思われるかも知れない。この部分にこそ、もう一つの投資ファンド ハーバードとしての特色が隠されている。詳細は次回へ。

 

以下、「ハーバード大学は巨大投資ファンド(3)」へ続く。

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