ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

ハーバードで語るアメリカの東アジア戦略(1)

f:id:madeinjapan13:20130126123804j:plain

誰もがアメリカの戦略に注目している、といって過言ではない。特に、日中対立については、グローバルテーマとなっているため、アメリカにとって「対岸の火事」ではなく、紛れもなく当事者としての判断を行っている。

 

日本語のメディア、あるいは中国語のメディアにおいて、アメリカとの友好関係にあることを自ら述べているコメントは、毎日のように目にするものの、その相手先であるアメリカの国家戦略について詳しく論じている国内の情報源は日中共に非常に少ないと感じている。誰もが「アメリカは自分の味方だ」と主張する割には、その実態については一般に知られていない(故に確かめようがない)のではないだろうか。

 

民主国家アメリカにおいては、政府の決定事項はメディアで報道されるが、その背景となっている議論においては、さまざまな有識者が、さまざまな立場で意見を表明しており、聞く相手によって「アメリカの考え方」というのは大きく異なる場合がある。但し大筋の議論の流れがあり、それを理解するだけで随分と整理がしやすくなる、というのが筆者の実感である。

この大筋を理解するための好著が、「Asia, America, and the Transformation of Geopolitics」(William Overholt著)である。Overholt氏は現在筆者が所属しているハーバードの研究所に7年程在籍したアメリカきってのアジア通の研究員であり、ハーバード以前にはランド研究所(RAND Corporation)と呼ばれるアメリカ有数のシンクタンクのアジア研究ヘッドを務めていた。残念ながら同書に日本語版は存在しないため、以下その要点をまとめたいと思う。

 

東アジアに限らず、20世紀後半のアメリカの世界戦略において、最も大きい目標は「冷戦の勝利」である。ソ連を中心とした共産主義勢力との対抗上、アメリカ外交、アメリカ軍、NATO、世界銀行、IMF、各開発銀行など、無数のアメリカの国家戦略を実現するための「冷戦システム」が、1950年代以降に構築されていった。

この「冷戦システム」は、要すれば、核兵器のある世界で、共産主義勢力と世界大戦を経ずして、共産主義勢力の自滅を導く戦略であった。日本とアメリカの軍事同盟も、共産主義勢力との対抗のためのひとつのパーツであり、また日本の戦後復興と、自衛隊による再軍備を、あえて後押しした理由も、強力な「防共の壁」を東アジアに構築することが主目的であった。

 

1991年、遂にソ連は崩壊し冷戦は終結することとなった。同書の興味深い考察は、ソ連を自滅に追い込み、アメリカの完全勝利となった後、20年以上経過した現在においても、この「冷戦システム」が強固な体制として残り続けており、21世紀(中国の台頭)に対応できていないとのポイントである。

対応できていないどころか、改革の抵抗勢力となっている、と指摘している。ソ連が崩壊した後ですら、かつての冷戦システムにおいて既得権益を持つ人々(多くは保守派)は、システムを維持することを主目的に、中国を盲目的にソ連に代わる仮想敵国として再設定したがる傾向にあると分析している。

中国との冷戦2.0に突入するのか、米中協調時代を迎えるのか、その判断のためには中国が「話しの通じる相手」かどうかを冷静に見極める必要があり、米中協調のG2体制がアメリカの国益にとってプラスになるのであれば、日米同盟を含めた既存の国家戦略の大幅見直しが必要となると論じている。

 

こうした議論に参加していると、日米同盟の脆弱性を規定するマクロファクターは、日本とアメリカの個別の関係だけではなく、米中関係の趨勢次第であることを痛感させられる。日本が同盟国としてアメリカに貢献することも重要である一方で、それだけでは独占的な立場を守ることはできないリスクがあることは、常に念頭に置いておく必要があると感じている。