ハーバード留学/研究員記録

純国産(純ドメ)の日本男児。 総合商社でアメリカ、中国の投資の仕事をしてきた後、 ビジネスと政治経済の融合を目指してハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School)に留学。 修士課程を卒業した後、現在は同大学の研究員として中国にて現地調査中。 アメリカや中国で感じることについて書いていきます。

イノベーションは教育できるか?

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以前の投稿「リーダーシップは教育できるか?」では、ハーバード(ケネディスクール)のリーダーシップ教育についてご紹介した。アメリカではリーダーシップ教育に加えて、イノベーション教育が盛んである。

 

ケネディスクールでは、マッキンゼー出身のリチャード・キャバナ教授が、「アントレプレナーシップとイノベーション」という授業を通じて、新規事業開発を中心にイノベーション・マネジメントの教育に取り組んでいる。 

キャバナ教授の授業の内容は、成功した事業を基にしたケースメソッドと、グループワークによる新規事業開発の10~15ページ程度のビジネスプラン作りであり、最終成果物としてはグループで作成するビジネスプランの発表が期待されている。

キャバナ教授自身が、創業当時のスターバックスに投資を行ったエンジェル投資家であり、またゲストスピーカーには、多くのベンチャーキャピタリストが訪れるため、単なるシミュレーションを超えて、商業化が見込める事業プランには資金がつく可能性がある、というのがアメリカの大学らしいところである。

 

これまでの仕事の中で、新会社の計画書や、それに基づくファイナンシャル・モデルを何度か作ってきた経験があったので、自分としてはある程度の「型」ができた状態で話を聞けるため、非常に参考になった。

こうした実践的な知識は、ベンチャー企業を作らなくても、大企業で新規事業開発に取り組む場合にも非常に役立つものだと実感した。ビジネスプランの話で印象深かったことは、右記の3点である。

 

(1) 大きな社会トレンドを見据えた巨大潜在市場を狙え

当地では高成長のベンチャー企業をstartupと呼び、例えば年間数億円をコンスタントに稼ぐ中小企業とは区別している。

ポイントは社会にイノベーションを起こすことであり、アントレプレナーは生活の糧を得る中小企業ではなく、startupを目指すことが暗黙の了解となっている。startupを目指すための必須要素は、大きな社会トレンドの変化と、それによって創出される巨大市場であり、ケーススタディを通じて成功例からマクロ要因の読み方を学ぶ。 

例えば、スターバックスの成功の要因は、単にうまいコーヒーを出したことではなく、リラックスしてくつろげる「Third place(会社、自宅以外の第三の場所)」に対する需要を見抜いたことであり、その需要を下支えしたリッチなキャリア・ウーマンの存在がある、などの分析を行う。他にもキャリア・ウーマン向けの卵子凍結サービスを起業したハーバードビジネススクール卒業生の体験談や、貨物輸送にハイエンド・サービスを導入したFEDEXなど、いわゆるITやバイオのようなハイテク分野以外のソーシャル・イノベーションを中心に議論していることも興味深い。

 

(2) マネジメント・チームのクオリティ

当地の事業開発においては、事業アイディアもさることながら、ある意味それ以上にマネジメント・チームのクオリティ、誰と誰がチームなのかについて、極めて高い関心を持っている。一人一人が優秀であることはもちろん、特筆すべきはその個性の組み合わせと、これまでの「経験」の組み合わせを注目している点である。会社名よりも経験を求めてブランド大企業を辞めるアメリカ人が、日本よりも多いことの理由はここにある。

 

(3) ファイナンシャル・モデルの変数は5個程度まで

大企業において、ファイナンシャル・モデルは通常非常に複雑で難解なものになりがちであるが、当地では変数は5個(顧客数、単価、売上、販管費、人件費、純利益)程度の単純なモデルを使うことを推奨している。複雑過ぎれば、直感的な理解の妨げになり、またあくまで変数なのでモデルを複雑にしたところで、将来予測の点でほとんど意味がない、という割り切りが背景にある。分かり易さと議論のし易さを最優先にしているのである。